議会質問と答弁

2020年第1回定例会一般質問

  1. 障害者権利条約の理念に則った障害者の地域生活支援のあり方について

【質問1】

 2014年に批准した障害者権利条約の19条は、「全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認める」と謳い、居住サービスなどと並ぶ地域社会支援サービスとして、障害者本人の選択と決定を支援するパーソナルアシスタンス制度を特記しています。

 世田谷区ノーマライゼーションプランの基本理念には、「一人一人が自らの意思で生き方を選択、決定しながら社会に参加できる」ことを大切にする、と明示しています。これは、障害者権利条約の理念にも通じます。

 現在、障害者が障害福祉サービスを受ける際に、個別支援計画を策定します。計画には、事業者が作るものと障害者自身が作るセルフプランがあります。昨年9月末では、セルフプランを選択しているのは、障害者総合支援法分で全体の約28%ですが、ケースワーカーがセルフプランの存在を知らせない、セルフプランから事業者プランへの変更を勧奨する、セルフプランは良くないと言ったなどの事例があることは、昨年6月の定例会でも指摘をしました。

 障害者の主体的な選択が尊重される社会をいかにしてつくるのか、区自らが問い直すことが必要ではないでしょうか。

自己選択で策定するセルフプランは障害者権利を保障するためにも重要だと考えます。区はセルフプランの重要性をどのように認識しているのか、お聞きします。

【答弁1】

 障害者総合支援法では、障害者等がサービス利用を希望する場合に、相談支援事業者によるサービス等利用計画案作成を基本としながら、相談支援事業者以外の者が作成するサービス等利用計画案、いわゆるセルフプランの提出も可能としています。

 セルフプランは、障害者が自ら作成するほか、家族や支援者等が作成することも可能で、障害者本人の力を引き出すエンパワメントの観点から大切なものとしてあります。

 一方、セルフプラン作成にあたっては、利用者本人に適したサービス等の情報収集、計画案の作成手順等について十分な理解が必要です。

 区としましては、セルフプラン作成にあたっての案内がわかりづらい面もあるため、今後、障害当事者や家族等からのご意見も伺いながら、案内文や様式の見直しを図り、庁内や関係機関とも連携して支援の充実に取り組んでまいります。

【質問2】

また、個別支援計画を策定するにあたって、留意しなくてはならないのは、障害福祉サービスと介護保険サービスの根本的な理念の違いです。この理念の違いが、65歳を超えた障害者に対し、介護保険への移行を強制するべきではない、とする理由です。区がこの違いを認識し、事業者プランにおいて、障害福祉サービスであるにも関わらず介護保険の理念に立ってしまい制度運用を誤ることがあってはならない、という立場に立つべきではないでしょうか。

個別支援計画作成は、障害福祉サービスと介護保険サービスの違いを理解し作成される必要があります。障害福祉サービスと介護保険の理念の違いについて、区の考えをお聞きします。

【答弁2】

 国は、障害福祉サービスと介護保険サービスとの制度上の適用関係等を整理したうえで、双方のサービス対象となる方の場合に、利用者個々の実態に即したサービス提供と、適切な運用に努めるよう通知しています。

 福祉サービス事業者は、利用者の意思及び人格の尊重の他、常に利用者の立場に立ったサービス提供を基本としており、これに加え利用者の意向や障害特性等を踏まえた個別支援計画の作成や、人権擁護、虐待防止の体制整備を行なうなどの特徴があります。

 区では、こうしたサービス提供上の原則や基準等について、研修や連絡会等の機会を通じて、相談機関や事業者等へ周知を図っておりますが、適切なサービス運用がなされていない場合があるとのお話は伺っています。

 障害福祉サービスは、障害者等の自立に向けて、個々のライフステージと生活実態に則した個別支援計画が作成され、適切に提供される必要があると考えておりますので、必要に応じて事業者への指導・助言を行ない、サービス向上が図られるよう取り組んでまいります。

【質問3】

また、決算特別委員会でも指摘しましたが、利用者が介護者を推薦することができる緊急介護人派遣事業は、精神障害者の除外や利用時間の上限、報酬額など制度設計には課題があります。区は来年度から精神障害者の地域移行に取り組みますが、例えば、地域に戻った時に、地域生活を支えるためには介助が必要ですが、介助者不足の現状ではこの事業は不可欠です。

緊急介護人派遣事業の制度改善を当事者、事業者とともに行なうことを求めます。区の見解をお聞きします。

【答弁3】

 緊急介護人派遣事業は、在宅障害者が一時的に日常生活を送る上で支障がある場合に、介護人による介護を行なうことで障害者の生活を支援することを目的に、身体障害者手帳や愛の手帳の方等を対象としており、精神障害の方が対象になっていないことは、課題であると認識しております。

 また、この間、利用時間数や報償費等の見直しについてお話をいただきましたが、身近な地域において、介助人を確保し、障害当事者を支える体制を整備していくことは、当事者の生活の安定等に繋がるものと考えております。

 お話の緊急介護人派遣事業の見直しにつきましては、当事者や家族会、支援機関等からもご意見を伺いながら、財源確保や事業が抱える課題等を踏まえ、関係所管とともに検討を進めてまいりたいと考えております。

2.インクルーシブな視点に立ち考える「世田谷区子ども計画」の策定について

【質問1】

2016年に起きた19人の障害者の生命が奪われた津久井やまゆり園事件の裁判が行なわれています。判決は3月16日に言い渡されますが、私たちは、この事件を風化させず、特異な考えを持つ人が起こした事件とするのではなく、このような事件がなぜ起きたのか、社会の問題として考えるべきです。

障害者は役立たない、という考えに至る手助けをした1つが、障害の有無で分ける分離教育ではないか、このように考え、二度とこのような事件を起こしてはならないという思いから、私はインクルーシブ教育の実現を求めています。

この度、「子ども主体」を掲げた「世田谷区子ども計画第2期後期計画案」がまとまりました。本計画は、今後5年間の計画を示すものですが、5年よりもっと先の未来に続く計画であるはずです。その先の社会はどのような社会であるべきなのか、障害があるなしに関わらず誰もが一緒に暮らしていく共生社会、インクルーシブな社会です。

しかし、残念なことに、本計画案では、インクルーシブの視点が抜けています。区長が世田谷区の教育において「真のインクルーシブ教育をめざす」と明言しているにも関わらず本計画の教育の部分にも、です。

子ども計画に、インクルーシブな視点を示すべきです。区の見解をお聞きします。

【答弁1】

 障害がある子どももない子どもも共に学び育つ共生社会の形成といった視点は、子ども計画の目指すべき姿である「すべての子どもが本来持っている力を存分に発揮し健やかに育つことのできる『子どもがいきいきわくわく育つまち』の実現に向けて、欠かせない視点であると認識しております。

 この度の子ども計画(第2期)後期計画(案)では、「子ども主体」を基本コンセプトに据え、「すべての子どもが虐待やいじめ、“障害の有無”などによって守られるべき権利が侵害されることなく、身近な地域で安心して楽しく元気に過ごすことのできる環境づくりが必要である」ことを明記し、ご指摘のインクルーシブな視点を含めた理念を、計画全体を貫く基本的な考え方として掲げたところです。

 インクルーシブ教育に関する部分につきましては、教育委員会とも調整し、より具体的な記述をしてまいりますが、子ども計画(第2期)後期計画におけるこうした基本認識のもとで、今後とも、地域社会に対する障害理解の促進や、子どもに関わる支援者の対応スキルの向上なども進めながら、子どもの尊厳と権利が尊重される地域社会の実現に取り組んでまいります。

【質問2】

 繰り返しになりますが、「障害がある」ことが人を「分けていい」理由になることを子ども社会に位置づけてしまうのが、今の世田谷の教育のあり方です。分けられ育つ子どもたちの間に分断を生み、その分断が大人社会の分断を生みます。インクルーシブな環境にいなかった人がいきなり、共に働け、と言われてもどうしたらいいのかわからない、それは当たり前のことだと思います。インクルーシブ教育は障害がある子どもにとって必要なのではありません。障害の有無に関わらず、子どもにも大人にも必要なのです。

2020年度の予算案に示された教育予算は、特別支援教育のみ、インクルーシブ教育を推進したいという意思を感じません。真のインクルーシブ教育をめざすと明言したにもかかわらず、現状、世田谷区がインクルーシブ教育を推進しない理由をお聞きします。

【答弁2】

 教育委員会といたしましては、障害のある子どもと障害のない子どもが同じ場で共に学び、どの子どもも一人の人間として等しく認められ、尊重される教育が目指すインクルーシブ教育と考えております。

 これまでも通常学級に在籍する配慮を要する子どもを支援するため、学校包括支援員や非常勤講師、臨時職員の支援要員の配置と充実に努めるとともに、オリンピック・パラリンピックを契機とした交流活動などを通じて障害者理解の啓発活動を行なうなど、段階的にその実現に向け取り組んできたところです。

 現段階では、より専門的な支援を必要とする子どもが存在する中、特別支援教室による指導では十分にその成果をあげることが難しい子どもに対して、よりきめの細かい指導を行なう必要があると考え、令和2年度予算に、自閉症・情緒障害特別支援学級の開設準備経費を計上しました。

 今後も、学校を支援する体制や障害者理解教育の充実を図りながら、障害のある子どもと障害のない子どもが同じ場で共に学ぶことができる真のインクルーシブ教育の実現に向け取り組んでまいりたいと考えております。

【質問3】

 また、今回の子ども計画には、子どもの貧困対策が盛り込まれます。本計画策定にあたり取り組まれた世田谷区子どもの生活実態調査の詳細が昨年12月に公表されました。この中で注目すべきことはいくつかあります。その一つが、子どもの頃に経済的に厳しい状況だった保護者よりも、暴力・虐待のある環境で育った保護者の方が、現在経済的な貧困状態にあるという事実です。貧困を生みだす背景に対する新たな視点であり、子どもへの暴力、虐待の影響を顕した貴重な調査結果ではないでしょうか。世田谷区の子どもの貧困対策には、子どもや保護者への暴力、虐待の影響に対するケアなども貧困対策として位置づけることが求められます。

世田谷区子どもの生活実態調査の分析結果をもとに、「経済的な貧困と暴力の関連」に着目した取り組みを盛り込むべきです。区の見解をお聞きします。

【答弁3】

 子どもの貧困対策につきましては、「子ども計画(第2期)後期計画」の中に「子どもの貧困対策計画」として位置づけ、子ども・子育て支援施策全体の中で推進することとしております。

 議員ご指摘のとおり、子どもの生活実態調査からは、生活困難を抱える保護者の方が自身が子ども期に親から暴力を振るわれた経験がある割合が高い傾向にあることから、子どもの貧困対策計画では、保護者の背景にDVや暴力などがあることを踏まえた支援を位置づけています。

 一方で、保護者自身が子ども期に暴力被害の経験があると、現在の生活困難度に関わらず、子どもへの体罰や育児放棄への影響が大きいという、貧困よりも暴力の連鎖の方が強いといった問題も見えてきました。

 そこで、体罰や暴力によらない子育てが行なえるように、親業講座などを充実させることを子ども計画でも掲げております。今後も、保護者自身が様々な背景を抱えていることを考慮し、丁寧な関わりや支援ができるよう、関係所管とも調査結果を共有して、全庁的に進めてまいります。

3.DV被害者への自立支援の構築について

【質問1】

2018年公表の内閣府「男女間における暴力に関する調査」では、女性の3人に1人がDV被害にあい、7人に1人がくり返しDV被害をうけ、被害にあった人の7人に1人が命の危険を感じていることが明らかになりました。DV相談は年々増加し、DVの目撃が子ども虐待と位置づけられたことにより、子ども虐待も増加しています。DVと子ども虐待の関係性については、目黒区などの子どもの虐待死事件によって明らかになっています。

世田谷区は、配偶者暴力相談支援センターの機能を整備するなど、DV被害者支援の体制整備に取り組んでいますが、次なる課題は、DV被害者の救済と自立へ向けた支援の充実です。

DV被害者支援には、一時保護のためのシェルターや自立支援のためのステップハウスが必要ですが、十分ではありません。

昨年、民間で運営されているシェルターなどの85%が経営が厳しく、長年の活動をやめるその窮状が報道されましたが、この現状を受け、国は2020年度予算に「DV被害者等セーフティネット強化支援パイロット事業」をもり込みました。4月に児童相談所を設置する世田谷区にとって、DV被害者への支援の充実は、子どもを虐待から救済するという視点からも、さらなる事業の充実に取り組む必要があります。 

DV被害者の自立支援の充実のために、区としてパイロット事業を活用しシェルターやステップハウスの整備に取り組むことを求めます。区の見解をお聞きします。

【答弁1】

区は、DV被害者の身体と生命を守り、生活再建の支援を強化するため、平成30年12月「配偶者暴力相談支援センター」の機能を整備し、DV相談専用ダイヤル開設、相談事実証明書作成、一時保護等を行なっております。

 DV被害者を安全な場所に確保し生活の場を提供するシェルターは、DV被害者支援において大変重要な機能であり、区は公共施設を活用する一方で民間施設とも連携し、緊急的一時保護に対応しているところです。

 DV被害者の状況は様々であり、シェルターは一時保護機能とともに、生活再建に向けたステップハウスの機能も重要となっておりますが、財政面や支援にあたる人材不足、児童虐待対策との連携不足なども指摘され、運営には多くの課題があると認識しております。

 こうした状況を踏まえ、国では令和2年度予算案に「DV被害者等セーフティネット強化パイロット事業」を盛り込み、民間シェルターへの支援を強化することとしております。区といたしましては、今後国による事業詳細を把握しながら、児童相談所設置自治体であることも踏まえ、DV被害者支援の観点から国の制度活用について検討してまいります。

以上